がんの発生と進行

がんとは、正常な細胞が異常な細胞に変化してしまう病気です。

一般に、細胞は常に新陳代謝を繰り返し、死んでいく細胞があれば、それと同じ形・性質をもった細胞が、同じ数だけ生まれてくる仕組みになっています。細胞の中にある遺伝子が設計図の役割を果たし、情報を正しく伝えているからです。

がんが発生するというのは、この遺伝子の働きが狂って、元の細胞とは形・性質がまったく異なる細胞が生まれてくることで、この細胞をがん細胞といいます。正常な細胞は、死んだ分を満たすだけ再生すると、それ以上は増殖しないようになっていますが、がん細胞はこの機能が狂っていて、無制限に細胞分裂を繰り返し、増殖を続けます。

がん細胞は周囲の正常な細胞を侵し、がん化していきます(浸潤)。また、血液やリンパ液を介してからだのあちこちへ流れ、行った先で増殖します(転移)。がん細胞は非常に「食欲旺盛」で、周囲の正常な細胞は酸素や栄養素をがん細胞に奪われ、弱っていきます。

また、がん細胞の代謝産物(がん毒素)が、臓器や神経を損なう原因の一つとみる説もあります。

がんの原因

がんの原因はまだ完全に解明されたわけではありませんが、最近の研究によれば、正常な細胞には「がん遺伝子」がすでに含まれていて、それがなんらかの原因で活性化しがんになるということです。またこれとは別に、細胞には「がん抑制遺伝子」が含まれていて、がん化を防いでいるものと考えられています。

なにかの原因でこの抑制遺伝子が欠け、がんが発生してきます。しかし、これらの活性化や欠損がなぜ起こるか、その根本原因はまだわかっていません。

がんを治す

がんの治療法は格段の進歩を遂げ、「不治の病」ではなくなりつつあります。ただし、早期発見が絶対の条件です。日本人に多い胃がんにしても、早期に発見して手術で切除すれば、ほぼ100%治るといわれていますが、治療の時期が遅れるほど生存率が低下します。

なお、一般に、治療後5年を過ぎて再発をみなければ、がんは治ったとみなされます。そうした考え方から、「5年生存率」が治療における重要な目安となっています。

がんの治療法

  外科手術 放射線治療 抗がん剤
(科学治療)
特徴
がんを切り取ってしまう方法。取り切れないと、残ったところから再発する。取りきれるがんかどうか、切除範囲をどうするのかなどを手術前に診断することが重要
放射線を照射してがん細胞の活動を止める。がんが広がっていても治療の対象となる。ただし、効果のないがんもある
薬の服用によりがんの治療をする。全身に広がった場合には、この治療法しかない。特定のがん(リンパ腫や白血病)には特に効果が高い。臓器別に有効な抗がん剤が増えてきている
適応
脳腫瘍、食道がん、胃がん、大腸がん、肺がん、子宮がん、卵巣がんなど
脳腫瘍、咽頭がん、舌がん、子宮がん、転移がん、悪性リンパ腫など
白血病、悪性リンパ腫、肺の小細胞がんなど
副作用合併症
手術による感染症、結合不全など
照射部分が大きい場合、白血球減少。照射部位に炎症反応など
白血球減少、嘔吐など(薬によって違う)
研究が進む新たな治療法
内視鏡的切除術で患者への負担が激減

アルコール注入
(濃度の高いアルコールで細胞を殺してしまう治療法)

冷凍療法
(最新で副作用が少ない)

粒子線照射
(普通の放射線では聞かないがんにも効く可能性があるが、設備がおおがかりで、高額でもあり、普及していない)

ガンマナイフ
(脳腫瘍など、小さいがんでからだの奥にある場合に効果的)

ICR
(がんに栄養を運ぶ血管に直接薬を入れる方法)

免疫療法
(自分の免疫を取り出し増やしてからだに戻す方法や、免疫力そのものを高める方法など)

漢方
(長い歴史のある方法で、経験から黄河あると伝えられている)

胃がん

がん細胞は粘膜の上皮に発生し、内側から外側へ向かってじわじわ広がっていきます。

これを浸潤といいます。進行した胃がんは胃の周囲におよび、クモの巣のような形で胃を包んでいるリンパ管やリンパ節を侵し、さらにリンパ液を介してほかの臓器などへも転移します。転移は血液によっても起こり、胃液の外側の漿膜へと浸潤したがん細胞は、さらに腹腔内へ出て散らばります。

日本は世界一の胃がん多発国として知られています。また、胃がんは日本では近年まで、がんによる死亡者数のうち常に第一位の座を占めていましたが、胃がんによる死亡者数は現在、横ばいか漸増状態にあります。これは、医学の進歩や検診制度の普及などの成果でもあるともいえますが、日本人の生活様式が球速に欧米化してきたことも、大きく関わっていると考えられます。

また、最近の研究では、塩分の取り過ぎやピロリ菌との関係が注目されています。塩分の摂りすぎには十分注意しましょう。

胃がんの原因となる可能性が高い要素

  • 塩分のとりすぎ
  • 過度なストレス
  • ピロリ菌感染

胃がんの早期発見のために

胃壁の粘膜下層にとどまっているものを早期がんといい、この段階までに治療できれば、9割以上の人が完治します。しかし、胃がんには特有の症状がなく、一般的な胃腸病と似たような症状しかみられません。

したがって、40歳以上を対象に実施されている「胃がん検診」など、定期的に検査を受けることが、早期発見の鍵となります。







大腸がん

従来、日本人には少ないとされてきた大腸がんですが、近年は急増しています。

原因としては、食生活の欧米化に伴って脂肪の多い食物の摂取量が増え、野菜や芋類など、繊維質を豊富に含む食物をとる機会が少なくなったことが挙げられます。脂肪の多い食事は便秘になりやすく、便に含まれるとされる発がん性物質が、より長い時間腸管の粘膜に触れているためと考えられています。

大腸がんのうち、結腸の粘膜に発生するものを結腸がんといいます。結腸は比較的長い消化器で、小腸側から順に上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸に分けられます。もっとも直腸(すなわち肛門側)に近いS状結腸に、もっとも多くがん細胞が発生します。

直腸の粘膜に発生するものが、直腸がんです。その大部分が腺腫とよばれるポリープ状の良性腫瘍から、がん化したものです。まれに肛門がんが発生することもありますが、大半は直腸がんとは別タイプのものです。ときに見られる腺がんも、同様です。

最近の研究により、繊維質の多い食物を好み、きちんとした排便習慣をもっている人は、大腸がんにかかりにくいこともわかってきました。

大腸がんの原因となる可能性が高い要素

  • 動物性脂肪の摂取量の増加
  • 食物繊維の摂取量の減少

大腸がんの早期発見のために

小腸に近い方の結腸に発生した大腸がんは症状があらわれにくく、造影X線や内視鏡検査、直腸指診などが早期発見には欠かせません。

比較的あらわれやすい症状として、下痢や便秘、食欲不振、体重減少、全身倦怠感、下部腹痛、腹鳴、腹部肥満などがありますが、とくに注意すべきなのは、便に血液が混じる症状です。







肝臓がん

日本では、肝臓がんによる男性の死亡者数が年々増加しています。

肝臓がんの発生原因は、まだ明確になっていないのですが、慢性肝炎から肝硬変になり、続いて肝臓がんが発生する例が目立ちます。そのため肝臓がんとウイルス性肝炎、とくにB型やC型肝炎との関係が疑われています。また、多量の飲酒を長年続けて肝硬変になり、肝臓がんへと進行する例が増加しています。ほかに経口避妊薬などとの関連も、現在研究中です。

肝臓から十二指腸へと流れる胆汁の通り道である胆管は、肝臓内の細い管から始まり、合流しながら太い胆管となって肝臓から出ています。肝臓内のこの胆管の細胞や肝細胞に発生するがんのことを、原発性肝臓がんといいます。

肝臓はほかのがんからの移転が多いことも知られています。

肝臓がんの原因となる可能性が高い要素

  • 肝炎(とくにB型やC型)
  • 肝硬変
  • 大量飲酒の習慣

肝臓がんの早期発見のために

比較的早期の症状として、だるい、腹痛が続く、腹が張る、食欲不振、体重減少、肝臓がはれるなどがあります。

ほかから転移した場合には、もとのがんの症状が加わります。肝臓がんには目立った症状が出ないことが多く、定期的に検査を受けることが大切です。

肝炎や肝硬変をわずらっているなら、より頻繁に検査を受けましょう。







肺がん

欧米ではもっとも多く発生するがんで、日本でも近年、急増しています。がんによる男性の死亡者数をみると、平成5年に胃がんを抜いて第一位になっています。

肺がんは死亡率が高いうえに早期発見率もあまりよくありません。比較的早期に発見できれば完治が期待でき、検診や健康診断などの普及によって治療成績は工場しつつあります。

肺がんの原因は完全に解明されたわけではありませんが、たばことの因果関係は無視できません。

気管支は肺の中で幾重にも枝分かれしていて、細い枝先のほうに発生するものを肺野がん、太い部分に発生するものを肺門がんといいます。気管支の粘膜に発生したがん細胞は、しだいにひろがって肺を包んでいる胸膜へ達し、胸壁を破壊してしまうこともあります。

肺がんは離れた場所にも転移しやすいがんです。同時に、発生した場所でも大きくなり、周囲の組織や臓器へと浸潤していきます。肺の近くにある心膜や心房、大静脈、上大静脈、横隔膜などは、しばしば進行した肺がんの影響を受けます。

肺がんの原因となる可能性が高い要素

  • たばこ(喫煙量が多いほど、喫煙開始年齢が若いほど、危険は増大する)
  • 大気汚染、ちりやほこりの多い職場

肺がんの早期発見のために

胸部X線検査を定期的に受けることが重要です。

また、症状が出にくくX線撮影でとらえやすい肺野がんに対して、肺門がんはX線撮影ではとらえにくく、その代わりに初期症状が比較的はっきりしています。

せき、たん、血たん、胸痛などがその注意信号です。また、かぜや肺炎のような症状がながく続く場合にも要注意です。







乳がん

日本では近年、乳がんの発生数が急激に増加しています。早期発見率や治療成績は、ほかのがんとくらべて必ずしも悪いほうではありませんが、発生数が急増しているため、死亡者数も年々増加傾向をしめしています。

これは、脂肪分の多い食事など、生活スタイルの欧米化が原因と思われます。

また、晩婚および高齢出産、出産を経験しない女性が増えていること、出産回数が減少していることなど、現代社会における女性のライフスタイルの変化もまた、乳がんの発生と大きく関わっていると考えられています。

乳がんは乳腺の奥にある小葉と呼ばれる部分に発生することが多く、しばしば近くにあるリンパ節へ移転します。乳房のリンパ管はわきの下のリンパ節と通じているため、がん細胞がリンパ液にのって流れていきやすいためです。

この転移が起こると、わきの下のリンパ節のところがはれて大きくなってきます。リンパ液にのって、がんがほかの臓器へとひろがらないよう、症状を見逃さないようにしましょう。

乳がんの原因となる可能性が高い要素

  • 年齢が40歳以上
  • 30歳以上で未婚
  • 初産年齢が30歳以上
  • 閉経年齢が55歳以上
  • 肥満度が20%以上
  • 良性乳腺疾患の既往あり
  • 乳がんの既往あり
  • 家族に乳がんの発生歴あり

乳がんの早期発見のために

乳がんは、自己チェックによって早期発見しやすいがんとして知られています。

また、乳がんの原因となる可能性が高い要素に列記したような危険因子を備えていないかどうか、問診によってチェックすることも大切です。X線検査や超音波検査、細胞診なども含め、年1回の定期健診を必ず受けておきましょう。







子宮がん

子宮体がんの増加にもかかわらず、子宮がん全体の死亡者数は、現在横ばいかやや減少傾向にあります。

子宮がん全体の発生が減りつつあることや、検診制度などを普及し、早期発見と早期治療を実行できるようになったことが理由に挙げられます。

子宮がんの原因は未解明ですが、ヘルペスウイルスⅡ型やヒトパピローマウイルスといったウイルス、男性器の恥垢、精液のたんぱく質などとの関係が疑われています。子宮がんは処女にはめったにみられず、若いときから性交渉を経験した人、早婚ではじめての妊娠年齢が若い人、妊娠や出産回数が多い人などに発生しやすいという特徴があるためです。

膣に近い子宮頚部できる子宮頸がんと、その奥の子宮体部にできる子宮体がんの2つに大別され、日本では、子宮がんの90%以上が子宮頸がんです。

ほかのがんと同じく、子宮がんもからだのいろいろな場所へ転移を起こします。周囲の細胞をじわじわ侵していく形でひろがることを浸潤といい、そうして子宮外へ出たがんは、やがて骨盤壁へ達し、さらに膀胱粘膜や直腸粘膜、腹腔内臓器などへひろがっていきます。

子宮がんの原因となる可能性が高い要素

  • 子宮頸がん:性生活や出産と関連があり、ヒトパピローマウイルスの感染が関与しているのではないかと考えられている
  • 子宮体がん:閉経後の女性に多く見られる

子宮がんの早期発見のために

子宮がんは30歳以上に多く見られ、40~50歳代がピークとなります。

早期には無症状のことが多いので、30歳を過ぎたら年に一回は子宮がん検診を受けましょう。自覚できる比較的初期症状として、性向時の出血がみられることがあります。







白血病

白血病は、小児がんのおよそ半数を占め、高齢者層でも増加が続いています。

原因については不明な部分も多いのですが、ウイルスや放射線などが発症に関与していると考えられています。また、成人T細胞白血病はHTLV-Ⅰというレトロウイルスにより起こるなど、特定の種類についてはすでに原因が解明されています。

白血病には、急性白血病と慢性白血病があります。血液の細胞は骨髄でつくられたあと、未熟な状態からしだいに成熟していきますが、この成熟が正しく行われず、未熟な細胞が無制限に増えてしまうものが、急性白血病です。

慢性白血病は、異常な染色体をもったり免疫機能が損なわれたりしている白血球が、無制限に増加していく病気です。

白血病は「血液のがん」とよばれるなど不治の病のイメージが強く恐れられていますが、化学療法の進歩や骨髄移植により、一部についてはかなりの治療効果を期待できるようになりました。

骨髄移植は、型の一致や拒絶反応などの問題があり、まだ完全とは言えませんが、現在もっとも注目されている治療法です。

白血病の原因となる可能性が高い要素

  • ウイルス(HTLV-Ⅰ)
  • 放射線の照射
  • 有機溶媒(有機物を溶かすために用いる液体)との接触
  • 遺伝

白血病の早期発見のために

急性白血病の症状には、疲れやすい、動悸、息切れ、発熱、寝汗、出血しやすい、胸骨を叩くと痛む、リンパ節や肝臓・脾臓のはれなどがあります。

慢性白血病では、だるい、疲れやすい、体重減少、寝汗、上腹部の不快感、リンパ節や脾臓のはれなどがみられますが、発症が緩慢なため自覚する前に、健康診断などの血液検査で発見されることも少なくありません。







皮膚がん

皮膚は表面から順に、表皮、真皮、皮下組織の3つに分けられ、さらに表皮は角質層、顆粒層、有棘層、基底層に分類されます。

皮膚がんが多く発生するのは、有棘層と基底層です。皮膚がんは、各層の細胞がなんらかの原因によって悪性化したもので、紫外線による影響がよく知られています。皮膚への刺激も危険因子の一つで、足の裏や唇など摩擦されることの多い場所にできたほくろは、注意が必要です。

また、日光角化症やけが、やけどなどの傷跡が皮膚がんに進行することもあります。これは、紫外線を防ぐ力がほかの場所よりも弱くなっているためと考えられます。

皮膚がんは、ほくろとは違い、急に増えたり大きくなったりします。形や表面の状態も不定形なことが多く、硬いしこりのようになることもあります。色に濃淡がある、境目がはっきりしないなど見分ける目安がいくつかありますので、とくに新しいほくろができた時には、必ずチェックしましょう。

皮膚がんの原因となる可能性が高い要素

  • 日光
  • 放射線治療や投薬
  • 慢性的な皮膚炎や傷跡

皮膚がんの早期発見のために

新しいほくろやしみができた場合、大きさや色に注意しましょう。

急速に大きくなったり、色が滲み出すように周囲にひろがったりしているときは、メラノーマ(悪性黒色腫)の可能性があります。すぐに専門医の診察を受けましょう。